第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
楽巌寺は観覧席でモニターを眺めていた。
誰とも言葉を交わさずに佇む姿は、まるで彫像のようである。
コツを掴んだのか。順平は呪骸に殴られることなく、詞織が垂水を打ち負かしたところを見ていた。
別のモニターでは、刀を真希に取られてどうすることもできずに佇んでいた三輪が、掛かってきた電話に出て間もなく地面に倒れた。
「あぁ、寝ちゃった」
残念そうに歌姫が落胆の息を吐く。
「え、何で……」
「棘の呪言だね。ほら」
目をパチクリと瞬かせる順平に、五条がさらに別のモニターを指した。
そこでは、狗巻がメカ丸の傍らに落ちていた携帯を操作している。
「私、ちょっと行ってくる。呪霊がうろついてる森に放置なんて危ないから」
そう言って、歌姫が席を立った。
楽巌寺はゲーム開始前、内密に加茂を呼び出したときのことを思い出す。
区画に放つ二級呪霊――それを、虎杖 悠仁暗殺のために、準一級呪霊とすり替えておいたのだ。
生徒たちに暗殺の指示は出しているが、彼らにはまとまりがない。そこで、この準一級呪霊を用意したのだ。加茂ならば上手く使えるだろう。
加茂には、準一級呪霊の躾に使った血液の入った小瓶と笛を渡してある。
もちろん、笛が鳴るまで大人しくしているよう躾けてあるため、万が一にも狩られるようなことはない。
「そうさの。三輪が心配じゃ。早う行ってやれ」
加茂のことだ。虎杖と接触したタイミングで、こっそり匂いをつけているはずだ。加茂の血を混ぜておけばそれくらい造作もない。
虎杖は東堂と戦っている。タダでは済まない。
その後のタイミングで準一級呪霊に襲われたら、まず死ぬだろう。
生徒の心配をするふりをしながら、楽巌寺は内心でほくそ笑んだ。
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