第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「そうか。ならば、君にはこちらに集中してもらおうか。同時にもう一種式神を出せるだろ。出し惜しみされるのはあまり気分が良くないね」
出し惜しみも何も、まだ玉犬が仕事中である。呼ぼうにも呪力の消費量の兼ね合いで呼べないのだ。
「加茂さんこそ、その矢がラストでしょ。貧血で倒れても助けませんよ」
苦し紛れに指摘してみる。
――【赤血操術(せっけつそうじゅつ)】。
自身の血とそれが付着したものを操る、血筋が大好きな御三家らしい術式だ。矢尻に血をつけておけば、矢の軌道も思いのままというわけである。
「心配いらないよ。これらは全て、事前に用意したものだ」
そう言って、加茂は最後の一矢を天井めがけて発射した。矢によるものとは思えないほどの破壊力で天井が打ち崩される。
瓦礫によって視界が瓦礫によって奪われた――その一瞬で、加茂は伏黒との距離を一瞬で詰め、拳を放ってきた。
とっさにトンファーに呪力を流し、拳を受け止める。その拳は、予想以上に重たかった。加茂にこれほどのパワーがあったのか。
「よく反応したね。気を抜くなよ」
薄い瞼を開いた加茂の目の周りが赤く縁取られている。
ビリビリと痺れる腕で、強力な打撃を受け止めるべくトンファーを構える――がそれよりも早く拳が迫った。呪力を流す間もなく、トンファーが片方 根元から折れてしまう。
スピードもパワーもさっきまでとまるで別人。
血液を操ることができる――それはつまり、形状や運動だけでなく、体温や脈拍、赤血球量などの血中成分まで自在にコントロールできるということ。
――【赤鱗躍動(せきりんやくどう)】。
「ドーピングか!」
「気づいたかい? だが、俗な言い方は止めてほしいね」
打ち据えられた拳の衝撃に耐えきれず、伏黒はボールのように弾け飛んだ。
* * *