第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
京都校三年にして準一級呪術師、そして御三家の一角である加茂の嫡男 加茂 憲紀と交戦しながら、伏黒は森の中にある建物の屋内まで移動していた。
真希は大丈夫として――途中で逸れた詞織のことが気になる。確か、垂水 清貴と戦っていたはずだ。
両手にトンファーを持ち、伏黒は加茂の攻撃から逃れるべく階段を駆け降りる。
「考え事かい?」
階段の上から、加茂が三本の矢を同時に放ってきた。
矢は直線にしか飛ばない。それなのに、放たれた矢は直線に進むことなく、急降下して伏黒を襲った。
伏黒はトンファーで矢を叩き折る。だが、一本分を取り零してしまった。
それでも、伏黒は慌てることなく佇む。
「…………」
伏黒の傍らに控える羽根の生えた蛙。
蝦蟇と鵺を拡張術式で呼び出した式神――【不知井底(せいていしらず)】。
長い舌で巻き取られた矢をトンファーで打ち砕くと、壁に鮮血が散った。矢尻に少量の血が付着している。
物理法則を無視した軌道は、加茂の術式によるものだ。
「神ノ原 詞織君のことが気になっているのかな? 君は昔から、彼女のことばかり見ていたね」
「惚れた女を気にかけるのは当然でしょ」
照れもせずにはっきり言うと、加茂はフンッと鼻を鳴らす。
「他を心配していては、早々に棄権(リタイア)することになるぞ」
「心配? まさか」
トンファーを構え、階段の上で矢を番る加茂を見据えて口角を上げた。
「気になってるだけで、心配なんて微塵もしてませんよ。詞織の実力はよく分かってますし。それに、ムカつくことに、俺以上に詞織を大切に思っているヤツがいますから」
詞織にとっての最強の味方。
もしも詞織に危険が及べば、呼びもしない間に詩音が出てくるだろう。詞織を傷つけられることに人一倍敏感だ。
詩音がいれば、詞織は死なないし、負けない。