第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「……何で……何で、"オレ"じゃダメなんだ……"オレ"の何がダメなんだ……"オレ"だって、キミを幸せにできるのに……!」
垂水の言葉を噛み締める。
あの幻の中で、確かに詞織は心地良さや幸せを感じていた。
けれど……"違う"と思った。自分が求めている幸せは、これじゃないと。
「ごめんなさい……メグのことが好きだから……だから、あなたといても、わたしは幸せにはなれない」
グッと息を詰めて、何かを堪えるようにして詞織を見つめると、垂水は大きく息を吐き出す。
「…………完敗だ……」
一言、吐き出すように言うと、彼はズルズルと地面に腰を落とした。
『潔いわね。そこだけは評価してあげる』
詞織は目を閉じる。暗い空間に赤い瞳を持ったもう一人の自分が現れた。
『やっぱり、あたし以上にあなたを愛せる人間なんていなかったわね』
ふふっと愉快そうに声を上げて笑いながら、詩音は詞織の生得領域へと帰って行った。
ゆっくりと目を開けた詞織の瞳は、いつもの夜色を湛えて瞬く。
急いで伏黒のところへ行こう。
確か、御三家の加茂家 嫡男と戦っていたはず。すぐに応戦しにいかなければ。
そう思って、詞織は垂水に背を向けた。
「伏黒クンが嫌になったら、ボクのところにおいでよ」
力なく笑顔を浮かべる彼に、詞織は自然と口角を上げる。
「そんな日なんて来ない」
そう言い残して、詞織は森の奥へと向かった。
垂水 清貴――棄権。
* * *