第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「まさか……」
『驚いた? まぁ……呪いの女王と呼ばれた里香には劣るけれど、あたしだって特級呪霊。あなた程度に祓われはしないわ。そうでしょ、詞織?』
呼びかけられ、詞織はゆっくりと呼吸を整え、自分の中にいる詩音を強く意識する。
力を解放したくて仕方がないと。目の前にいる男が憎らしいと叫ぶ詩音の心に、そっと囁くように呼びかける。
「【こころとく 詞(こと)の葉を織り 詩(うた)を詠み 枷解く音の 光にぞ溶く】」
囁くような歌声に、詩音が『ふふっ』と声を上げた――……瞬間、ぶわりと強い風が詞織――否、詩音を中心に広がり、その場の空気を塗り替えるほどの呪力が場を満たす。
ゴクリと垂水が唾を呑み込んだ音が聞こえたような気がした。
『アハハッ! アハハハハハ! 最高! 最高よ! 最高だわ! 感じる! 詞織と同じ音を! 風を! 世界を!』
詞織の身体を抱きしめ、枷を解かれたことによる恍惚と歓喜の声を上げた。
「クッ……怯むな! 行け‼︎」
垂水が自身の式神であるサメに号令を出す。
『あらあら。ヒドイご主人様ね』
「【天雲に 近く光りて 鳴る神の 見れば畏(かしこ)し 見ねば悲しも】」
バチバチッと爆ぜた稲妻が走り抜け、二匹のサメを攻撃した。しかし、のたうち回って暴れたものの、消し去ることはできない。
大きな口を開き、ギザギザのノコギリのような歯がびっしりと並んだ顎が迫る。
「……っ!」
『【オン・アロリキャ・ソワカ】』
顕現した不可視の壁に、二匹のサメはパンッ飛沫を上げて弾け散った。