第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「マーメイド!」
パンッと音を立てて、神秘的な女性を象った水が弾けた。
ゆっくりと目を開いた詞織の瞳は、左側だけが血を固めたように赤い。
『ズルい子ね……都合のいいときだけ、あたしに助けを求めるんだから。まぁ、そんなところも愛しいのだけど』
「ごめんね、ありがとう」
一人で二人分の会話をする詞織に、垂水はまるでおぞましいものでも見るようにして、驚愕に目を見開いた。
「何だ……何なんだ……オマエは⁉︎」
微かに声を振るわせて叫ぶ垂水に、詩音はクスクスと小さな笑い声を立てる。
『それって、あたしに言っているのかしら?』
答えとも言えない詩音のセリフに、垂水はハッと何かに気づいたようだ。
「まさか……詞織ちゃんに取り憑いてる……?」
『取り憑いてるなんて人聞きが悪いわね。間違ってはいないのかもしれないけど……あたしはもう一人の詞織。あたしたちは二人で一人だもの。二つに分けて生み落とされたことがそもそもの間違い。今の姿こそが本来のあたしたちなのよ』
どこか恍惚とした表情で語る詩音に、垂水はギリッと奥歯を噛み締める。
「何て言おうが、呪霊は呪霊だろ!」
そう言って、垂水が呪力で出現させた水の輪から四メートルにも迫る二匹のサメを召喚する。がっしりとした流線紡錘型の体型に、尾びれの上下の長さがほぼ等しい三日月型を持っている。
『あらあら、大変。こんな檻の中にいては、詞織が食べられちゃうわ』
言うや否や。詩音は刀印を作り、檻を切り裂く。
それだけで、詞織を捕らえていた檻は水を弾けさせて消失した。