第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
こちらを気にかけることなく、一方的に快感を与えようとしてくる口づけは"いつも通り"。その間に彼の手は首筋を撫で、手際よく制服のボタンを外していく。
なのに――……。
違う、全然違う! だって……!
いつだって長い髪を撫でながら耳に掛け、まずは触れるだけの口づけをしてくれた。そうやって何度か軽い口づけを交わしながら、"彼"はこちらの様子を窺い、次第に深くしていく。
どれだけ身体を重ねても、一度だって自分本位な抱き方はしなかった。いつまでも壊れ物を扱うように優しく慎重で……。
服を脱がすときだって、「いいか?」と毎度のように聞いてくる。「いいよ」と言っても、"彼"はどこか緊張したように、ぎこちなく脱がせてくれるのだ。
一度目は優しくゆっくり。けれど、二度目は余裕がなくなって激しく。そんな中でも、決してこちらへの気遣いは忘れない。
「ま、待って……!」
戸惑う詞織の異変を感じたのか。
垂水は口づけを中断し、詞織の顔を覗き込んできた。
「どうしたの? 今日はそんな気分じゃなかった?」
「あ……」
傷ついたような悲しい表情をする垂水に、詞織の胸の中で罪悪感が一気に募る。
「ご……」
「詞織ちゃん……?」
名前を呼ばれて、「ごめんなさい」と紡ごうとした言葉が続かなかった。
詞織ちゃん、と呼ばれることに強烈な違和感。
"彼"はいつも、こんな呼び方をしていただろうか。
――「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを……」
ぽぅ、と胸の奥に温かな熱が灯る。
――「……別に、好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません。そして、辿り着いた先にいたのがコイツです」
――「この場で俺が一番優先したいのはオマエの命だ。俺は――……!」
――「俺はオマエと生きていたい。俺が泣いたり、笑ったりするとき、オマエにも隣にいて欲しい。呪術師として、いつ死ぬかは分からないけど……だからこそ、一分でも一秒でも無駄にしたくない。最期の瞬間だって――俺はオマエを隣に感じていたいって思う――……」