第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「……詞織ちゃん」
名前を呼ばれて意識が覚醒する。
ハッと隣を見ると、垂水がこちらを覗き込んでいた。
「どうしたの? どこか具合悪い?」
ここはどこだろう……そう思って視線だけ周りに動かす。そして思い出した。
ここは呪術高専の"京都校"にある学生寮の垂水の部屋だ。
「もしかして……カッコいい恋人の顔に見惚れてたとか?」
悪戯っぽく笑う垂水に内心で苦笑しつつ、詞織はフッと小さく吹き出す。
「そうかもね」
そう言うと、垂水は目を丸くして、段々と顔を赤くした。
「……ごめん、ちょっとこっち見ないで。今、めちゃくちゃカッコ悪い顔してるから」
顔を隠した垂水がそっぽを向こうとする。
そんな彼に悪戯心が刺激され、詞織は垂水の腕を掴んだ。
「見せて」
「やだ、ダメだって!」
嫌がる垂水の腕を押しのけると、彼の顔はリンゴのように真っ赤に染まり、いつもの自信満々な瞳は恥ずかしそうに揺れていた。
「可愛い」
「……だから、ヤダって言ったのに……」
嘆息する垂水は、詞織の腕を振り解いて、反対にベッドへと押し倒される。
「キミの方が"オレ"よりずっとカワイイよ」
熱い視線に見つめられ、詞織は応じるようにゆっくりと目を閉じた。
自分を優位に立たせたいと感じたとき、彼は"ボク"ではなく"オレ"という一人称を使う。
垂水の手が顎に触れ、口を開かされる。
唇が触れた、と思ったときにはすでに熱い舌が入ってきて、上顎を舐めた。
違う……!
唐突に頭を過った強烈な違和感に、詞織は目を見開いて垂水の肩を押す。けれど、全くビクともせず、垂水の舌は詞織の舌を追い回し、唾液を啜り、酸素を奪っていった。