第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「……メグ……」
「え……?」
まるで神の啓示のように、唐突に降ってきた名前。
思い出す……彼と過ごした長いようで瞬きの間に過ぎて行った日々のこと。
笑ったり泣いたり、時々ケンカしたり……辛いこともあったけれど、幸せだと感じたことしか思い出せない。
「……あなたは、誰……?」
ポツリと小さく呟くと、垂水はどこか引き攣ったような笑みを浮かべる。
「誰って……キミの恋人だろ? ボクたちはつき合って……」
「違う!」
確信していた。
彼からもたらされる愛情は、自分が慣れ親しんだものではないと。
「どうしたのさ、詞織ちゃん。キミだって何度も言ってくれただろ? ボクのことを『愛してる』って……」
その言葉は決定的だった。
「……愛して、る……?」
「そうさ。ボクとキミは互いにそう言いながら、いつも愛し合った。そうだろう?」
「そんなわけ、ない……」
そんなわけはない。
自分が『愛している』という言葉を向ける相手は、この世でたった一人しかいない。
目を閉じると、暗闇の中で小さく声を立てて笑う少女の声が聞こえた。
ぼんやりと浮かぶ、血を固めたような二つの紅い光。