第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
「ねぇ、詞織ちゃん。伏黒クンの式神も、けっこう色んな種類がいるでしょ?」
突然の話題転換に戸惑いつつ、詞織は口を挟むことなく沈黙する。
「ボクも色々いるのさ。たとえば攻撃専門のシャチやサメ。拘束専門のウミヘビ。防御が得意なタートル。他にもいるけど――この子とかどう?」
垂水が生み出した水が大きくうねり、人の形をとった。
透き通った水の身体――上半身はどこか神秘的な雰囲気と優しそうな顔立ちの女性で、下半身は魚。手には竪琴を持っている。
「……人魚……?」
呟いた詞織の言葉に答えることなく、垂水は呼び出した式神を振り返った。
「【マーメイド】、教えてあげてよ。ボクと一緒にいれば、どれだけの幸せを感じられるのか」
応じるようにして、マーメイドはほっそりとした指先を竪琴に這わせ、ゆっくりと弦を鳴らす。澄んだ水が流れるような、ゆったりとした高音が耳朶を震わせた。
美しい旋律が耳を冒し、急速に酷い目眩が襲ってくる。
ぼやけた視界の中で、垂水の薄い唇が弧を描くのが見えた。
メグ……!
助けを乞うように心の中で叫ぶと、脳裏にぶっきらぼうな幼なじみの後ろ姿が過ぎる。
だんだんと遠のいていく意識の中で、目頭が妙に熱かった。
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