第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
伏黒や真希とはぐれていることには気づいていたが、それを気にするだけの余裕が詞織にはなかった。
なぜなら、詞織は現在、垂水の呪術による水の檻に囚われているからである。
「囚われのお姫様? チョー最高!」
うっとりと自分を眺める垂水に、もはや言葉も出ない。
「詞織ちゃん、何か好きな魚とかいる?」
「…………」
「やっぱ可愛い系が好きかな? クリオネとかクラゲとか? イルカはその檻の中じゃちょっと大きいね」
檻の柵からふよふよとクリオネやクラゲが何匹か出てきて、詞織の周りを漂い始める。
この男、水流の使い手だと思って油断した。
垂水 清貴――彼は式神使いだったのだ。
ジッと黙っていると、彼は焦れたように少しだけ眉を寄せる。
「ねぇ、何か話してよ」
「ここから出して」
「ダメダメ。だって、出したら伏黒クンのところに行くでしょ?」
「何か問題?」
行くに決まっているだろう。恋人以前にチームメイトなのだから。
「大問題さ! 今のうちに、キミにはきっちり教えないと。ボクが彼よりもキミを愛し、幸せにしてあげられることをね」
「あり得ない」
詩音ならまだしも、自分の中で垂水の存在が伏黒を上回れるわけがない。
どれだけ触れて、抱きしめて、愛の言葉を囁かれようとも、自分の心に響くわけがない。
すると、垂水はあからさまに大きくため息を吐いて見せた。