第18章 吉野 順平のソロ【番外編】

「僕は……僕は、母さんを殺した呪詛師を……見つけたくて……」

　母が死んだ日の光景が頭を過ぎった。
　腹から二つに裂かれ、目も当てられない遺体。
　ほんの少し前まで、くだらない話をして、一緒に笑っていたというのに。

　シングルマザーで、自分と順平が生きるために懸命に働いて、学校に行きたくないというワガママを笑って許してくれて……たった一人の家族であり、たった一人の理解者だった。

　あんな死に方をしていいはずがない。

　怒りと憎しみを思い出し、ギュッと拳を握りしめた。

「母を殺した呪詛師を見つけたい……それで？　その呪詛師を見つけてどうする？　恨み言でも言うか？　それとも――……殺すか？」

「それは……！」

　殺してやりたいに決まっている。


　――『一度人を殺したら、「殺す」って選択肢が、俺の生活に入り込むと思うんだ。命の価値が曖昧になって、大切な人の価値まで分からなくなるのが、俺は怖い』


　虎杖の言葉を思い出して、順平は夜蛾の問いに答えることができなくなった。

　もし、呪術師になれて、その呪詛師を探し当てることができて、殺してしまったら。
　自分は危機的な状況に陥ったときに、簡単に命を諦めてしまうのか？

　殺してしまえば済む話だと、顔色一つ変えることなく、平然と、淡々と命を切り捨てるのか。

　そんな自分を想像して、ゾッとした。

　母を殺した呪詛師を殺してやりたい。
　そう思っているのは事実なのに、それを口に出すことができなかった。