第17章 開幕のファンファーレ【反省】
「……話って?」
コトッと湯呑みを置き、歌姫は向かい側に座る五条を見た。
やや語気が荒くなったのは、いちいち燗に触ることをしたり言ったりする相手なのだから仕方がないだろう。
先ほども、「ちょっと話があるんだけど。どうせヒマでしょ?」などと言われた。
自分も五条も引率教師だ。ヒマなわけがない。
案の定、荒い言葉の端を拾った五条が首を傾げた。
「なんでキレてんの?」
「別にキレてないけど」
平静を装って返す。
平常心、平常心。一つ一つの言動に心を乱されてはいけない。
相手は五条 悟。身体の大きな子どもだと思えば腹は立たない。
「だよね。僕、何もしてないし」
イラァッと平常心が崩れかける。
口を開いて文句の一つでも言ってやろうと腰を上げかけて、歌姫は思い止まった。
一瞬だけ忘れた平常心が戻ってきて、ひとまず五条の話というのを促す。
「高専に呪詛師……あるいは、呪霊と通じている奴がいる」
「ありえない! 呪詛師ならまだしも、呪霊⁉」
思わず身を乗り出す歌姫に五条は続けた。
「最近、そういったレベルの呪霊がゴロゴロ出てきてる。僕も特級呪霊二体と遭遇して、この間の星也の任務でも特級呪霊が出張ってきた」
ゴクリと喉が鳴る。
五条 悟は存在自体があらゆる意味でふざけた人間だが、こういった冗談を口にはしない。
それを踏まえて、歌姫は表情を引き締めた。
「本人は呪詛師とだけ通じてるつもりかもね。東京校(コッチ)は僕が探るから、歌姫には京都校側の調査を頼みたい」
「……私が内通者だったら、どうするの?」
口角を上げ、意趣返しのつもりで聞いてみる。
すると、五条は「ないない!」と手を振って"大笑いしやがった"。
「歌姫、弱いし。そんな度胸もないでしょ」
ブチィッと頭の中でキレる音がした。
その音に平常心も逃げ出し、衝動のままに歌姫は手元にあった湯呑みを投げつける……が湯呑みは当たらないどころか、中身のお茶すらかからなかった。
「怖ッ! ヒスはモテないよ?」
この男……!
初めて会ったときからタメ口を叩き、一度も敬意を払われたことがない、が――……。
「私の! 方が! 先輩なんだよ‼」
このセリフに、五条はしばらく沈黙すると、「?」と首を傾げた。
* * *