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夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】


「わたしも初めて見た。呪力なしで窓から四階に飛び込んでくる人」

 顔色一つ変えずに詞織が平然と返す。
 一人で苛々しているのが馬鹿らしくなり、伏黒は大きなため息を吐いた。そんな伏黒を見て、今度は二人揃って首を傾げる。

「あぁ、そういえばさ……」

 つい…と、虎杖が視線を動かした。視線の先では、先ほど詞織が燃やした呪霊の残骸を玉犬たちが二頭で喰っている。

「あっちで呪霊をバクバク喰ってんのは?」

「俺の式神だ」

「見えるの?」

 床に膝をつき、玉犬たちの頭を撫でながら虎杖を見上げた。玉犬たちも詞織に懐いており、頭を撫でる少女に顔をすり寄せる。

 はっきり言おう。カワイイ。大型犬と詞織。めちゃくちゃイイ。
 なんて、顔に出せるわけもないので、緩む口をいつも以上に引き結んで解説をしてやる。

「呪霊も呪術に関わるものも、普通は見えねぇんだよ。死に際とかこういう特殊な場では別だがな」

「あー、確かに。俺、今まで幽霊とか見たことないしな」

「……怖くないの?」

 あっけらかんとした態度の虎杖に、詞織が神妙な表情をして尋ねると、彼は微妙に顔を曇らせて腕に抱えた眼鏡をかけた先輩を見た。

「まぁ、怖かったんだけどさ……知ってた? 人ってマジで死ぬんだよ」

「は?」

 思わず間の抜けた声を出してしまう。それに対して、詞織は黙ったまま虎杖の言葉の続きを待った。

「それならせめて、自分が知ってる人くらいは正しく死んでほしいって思うんだ」

 自分でもよく分からない感情だと語る虎杖に、伏黒の脳裏に一人の女性が過る。

 いつも誰かのために一生懸命で、自分のことは二の次にしてしまう義理の姉。
 血の繋がらない弟である伏黒のことを本気で心配して声を掛けてくれていた。

 それだけじゃない。

 詞織にも……本当なら、呪術師なんて危険な仕事は辞めて、幸せになってもらいたい。
 呪霊との戦いなんて、綺麗な死に方や、納得のいく死に方ができるほど甘い世界ではないから。

 だから――……。

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