第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
『…………いイィィまぁ……なぁンじぃィぃィ……』
呪霊の身体が収束するように萎んでいく。
そこへ、我に返った詞織が口を開いた。
「【ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは】」
猛る炎が渦巻き、呪霊へと襲いかかる。炎がフッと音を立てて消えたときには、呪霊は真っ黒焦げに焼け焦げて動かなくなっていた。
ホッと詞織が息を吐き、伏黒の方を見て微笑んだ。こんな状況にも関わらず、胸が甘く疼く。
伏黒は意味もなく「ゴホン」と咳払いをし、虎杖へ視線を向けた。
「……何で来た、と言いたいところだが、よくやった」
「なんで偉そうなの? ……ってか……キミ、誰?」
虎杖が詞織を見つけ、首を傾げる。
「……神ノ原 詞織。メグと同じ呪術師」
「メグ?」
詞織の自己紹介に、虎杖はコテンッと反対側に首を傾げた。
「……名乗らなかったの?」
「名乗ったよ。伏黒って」
名字だけしか名乗っていないが。別に勝手だろ。
そんなことを考える伏黒に、詞織はジト目をくれるが、そんな表情も可愛いです。
「彼……伏黒 恵。小学校からのつき合いなの」
「へぇ……」
そう相槌を打って、虎杖は詞織にグッと顔を近づけ、マジマジと観察し始める。
なんだ、コイツ。
詞織を庇うように二人の間に割って入り、伏黒は虎杖を睨みつけた。
「……なんだ?」
「あ? あぁ、悪ィ。なんつーか、こんなキレイな顔した子、初めて見たから……つい」
無自覚なのか? それとも口説いているのか?
判断がつかないことが余計に苛つき、伏黒は眉を顰める。