第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
進みながら、月光が窓から降り注ぐ廊下の突き当たりに差し掛かる。その廊下がT字に交わる道を呪霊が塞いでいた。
呪霊に飛びかかろうと、玉犬たちが体勢を低くする。
「【…………――――光りて 鳴る神の 見れば畏し 見ねば悲しも……】」
透き通った和歌の詠唱に、伏黒はその人物が誰かすぐに悟った。稲妻が鋭く駆け抜け、貫かれた呪霊が消し飛ぶ。
「詞織!」
「メグ! あれ!」
再会の挨拶を交わすより早く、詞織がまっすぐ指をさした。
伏黒が突き当たりから左へ視線を向ける――――そこでは、男女二人の生徒が、呪霊に呑み込まれようとしていた。
おそらく、虎杖の言っていた先輩だろう。
細い手足に不釣り合いな大きな身体、突き出した目はギョロギョロと忙しなく動いている。
体格のいい男子生徒と眼鏡を掛けた女子生徒の顔や身体を、さらにいくつもの小さな手が掴んで引き入れようと蠢いた。
一瞬の驚きが判断を遅らせる。しかし、その一瞬があったとしても、間に合わないところまで、二人は呑み込まれてしまっていた。
瞬間。
――ガシャァアアァアアァァァァァァ――――ンッ
伏黒と詞織の足が止まる。
息を呑む中、月明かりを背負って現れた人影が、呪霊を勢いよく蹴り飛ばした。
「な、何……⁉」
「虎杖⁉」
さっきまで一緒にいた伏黒が先に、人影の正体に至る。
虎杖は答えることなく、呑み込まれそうになる二人の生徒を力づくで呪霊から引き剥がし、伏黒たちの方へと距離を取った。