第16章 これから目指すファンタジア【成長/我儘】
里桜高校では、全校生徒に一枚のプリントが配られた。
内容は――いじめに関するアンケート。
その議題に誰もが心当たりがあった。
それは加害者であり、被害者であり、傍観者――……。
吉野 順平が起こしたあの事件から数日後――順平の担任だった外村は一人の生徒を呼び出していた。順平が奇妙な力で攻撃した男子生徒だ。
彼は左腕をギプスで固定し、整った顔も腫れ上がったらしく、ガーゼや包帯でぐるぐる巻きにされていた。
それに触れることなく、外村は静かな声音で切り出した。
「吉野のあの傷、オマエがやったんだな」
順平の長い前髪で隠されていた顔。そこに刻まれた、痛々しい火傷の痕。
「あンとき震えて何もできなかった奴に、とやかく言われたくないんスけど。アイツ、学校辞めて引っ越したんだろ? だったら、もう良くね? つーか俺、あれから左腕がまともに動かねぇんスけど」
「今 聞いているのは、罪の話だ。オマエに下った罰については一人で噛みしめろ」
「先生の罰は?」
眉間に皺を寄せてすごんでくる。
自分に下った罰――……無知は罪だとよく言ったものだ。
知らなかったこと、知ろうとしなかったこと。
見えていなかったもの、見ようとしなかったこと。
話を聞こうとしなかったこと。
もっとできることがあったはずだ。無神経なことばかり言って、余計に順平を傷つけていた自分が、恥ずかしくてたまらなかった。
「俺はこれからだ」
まずは、見えていなかったものをちゃんと見る。
己のしたことを顧みない目の前の生徒と共に、自分もまた、順平の心を殺した罪を一生 背負って生きていく。
「ちゃんと見てるからな」
外村の言葉に、それでも男子生徒はこちらを見ようとしない。
一度で分からないのなら二度。二度で分からないのなら三度……何度だって言い続ける。
順平のような生徒を二度と見逃さない。
それがせめてもの――自分ができる順平への償いだ。
現実と己の罪から逃れようとする彼から目を逸らすことなく、外村は真っ直ぐに男子生徒を見据えた……。
* * *