第16章 これから目指すファンタジア【成長/我儘】
「……自分で殺して――……分からなくなった。ねぇ、星也さん。『正しい死』って、何?」
病と闘って死ぬことだろうか。
老衰で死ぬことだろうか。
誰かを助けて死ぬことだろうか。
祖父は、正しく死ねたと思った。
呪霊に殺されるのは、間違った死だと思った。
じゃあ、自分が殺してしまった人間は?
自分がしたことは、人殺しと違うのだろうか?
もし違うなら、何が違うのか……誰か教えてくれ。
震える手に、星也の細い指先が触れる。
思わず開けば、手のひらに爪が食い込んだのか、血がうっすらと滲んでいた。
「……僕にも分からない。善人は安らかに死ねたならいいと思う。でも、だからって悪人に苦しんで死ねとは思わない。世の中の人間は、誰かにとって善人であり、悪人だ。僕だってそう。たくさんの人から感謝を述べられ、それ以上に憎悪をぶつけられた」
助けられた人、助けられなかった人――……生き残った人、死んだ人――……。
助けられた人は当然、感謝の言葉を述べるだろう。
助けられなかった人間や、取り残された人間、遺族ならば憎悪をぶつけられることもあるかもしれない。
「死は平等であり、同時に不平等だ」
善人にも悪人にも、大人にも子どもにも――死は等しく訪れる。
そして、どんな善人も苦痛の中で死ぬことがあれば、悪人が安らかに天へ召されることもあるだろう。
善人を助けられず、悪人が生きながらえることもあるだろう。
「全てを『正しい死』に導くなんて不可能だ。僕はお勧めしない。それを目指すのは、とんでもなく苦しい道のりだからね――僕はいつも失敗してる。どれだけ手を尽くしても……全員を助けるなんてできないんだ。こうやって、取り零してしまう」
「…………」
星也の話に、虎杖は何も答えられなかった。
それに、勧めないと言いながら、星也は誰もが『正しい死』を迎えられるように手を尽くそうとしている。