第16章 これから目指すファンタジア【成長/我儘】
「バイバぁ~イ」
「待て!」
小枝のような手を振る真人へ迫りながら、星也が剣へ変形させた天枢を投げる。
「楽しかったよ」
そう言い残し、ズルンッと音を立てて排水口へ逃してしまった。
チッと珍しく感情を露わにして、星也が懐から符を抜く。
「【玄武】、【天后】。奴が排水口から逃走した。僕といた地点から東南へ向けてしらみ潰しに探せ!」
符が音もなく消えると、続けざまに彼は呼びかけた。
「【騰蛇(とうだ)】、【勾陣(こうじん)】。お前たちも追いかけろ。見つけ次第すぐに喰らえ」
応じるように真紅と黄金の大蛇が二体、星也の背後から排水口へと飛び込む。
「悠仁、僕たちも追いかけよう」
その言葉がどこか遠くで聞こえた――そう思ったときにはすでに、虎杖の身体は地面に倒れていた。
「悠仁!」
そういえば……どのタイミングから、彼は『悠仁』と呼んでくれるようになったのか。
そんなどうでもいいことが一瞬だけ頭を過る。
身体が鉛のように重い。どれだけ身体に命令しても、指先一つ、唇一つ動かすことができなかった。
命を弄ぶ真人が許せない。
順平を殺そうとした真人が許せない。
――真人を"殺してやりたい"。
グチャグチャに殴りつけて、原形を留めないほどに叩き殺してやりたい!
星也の呼ぶ声は聞こえている。
けれど、その声はどんどん遠くなっていき――……最後には聞こえなくなっていた。
* * *