第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
虎杖を置いて夜の学校に乗り込んだ伏黒は、ハァッと大きく息を吐き、周囲を見渡した。
「詞織……」
詞織は後回しだ。先に呪物を見つけないと。
頭では分かっていても、詞織のことが気になって仕方がない。
振り切るように頭を振り、虎杖から聞き出した部室の方へと走る。
詞織の強さは伏黒もよく知っている。けれど、長時間の戦闘で消耗しているだろうことだけが心配だった。
そのとき――……。
「きゃあぁぁあぁぁあぁぁ――――――ッ」
部室目前というところで、別の方向から、夜の空気を引き裂くような悲鳴が響き渡る。
「もう部室を出たのか!」
呪霊の気配があちらこちらからして、うまく気配を辿ることができない。
悲鳴を辿って渡り廊下への扉を開くと、その道を呪霊が塞いでいた。
人間の左足のような黒い身体。付け根に当たる部分に大きな口がつき、身体中にも目玉や口が無数についている。足の指は三本で足首も節くれていた。
『ちゅーるちゅーるちゅる……』
チッと低く舌打ちをした伏黒は、パンッと手を打つ。
「邪魔だ――【玉犬(ぎょくけん)】」
手を組み合わせ、床に犬の影絵を作った。すると、その影から大きな体躯を持つ黒と白の二頭の犬が姿を現す。
「――喰っていいぞ」
主人の命令に、二頭の犬が呪霊に飛びかかり、鋭い牙を剥いた。
あっという間に、呪霊は喰われ、伏黒は渡り廊下を駆け抜ける。
パパパンッと弾丸のように駆けながら、白と黒の軌跡が呪霊を貫いた。