第16章 これから目指すファンタジア【成長/我儘】
祓える――……そう確信した、瞬間。
真人の口角が不気味に上がるのを感じた。同時に、纏う空気が変化する。
ゾッと背筋に走った悪寒は、呪術師としての本能か。
「"悠仁"、下がれ!」
反射的に虎杖を突き飛ばすと、真人を中心に黒い球体が展開し、星也を飲み込んだ。
――領域展開【自閉円頓裹(じへいえんどんか)】。
何百本の腕を互いに組んだ天井を持つ、漆黒のドーム。
【領域展開】――呪力で構築した生得領域内で、必殺の術式を"必中"必殺へと昇華する呪術の極致。
真人の魂に干渉する術式はおそらく、原型の手のひらで触れることが発動条件。
それが必中の領域内となれば、自分は文字通り手のひらの上だ。
「お陰で領域展開を完成させられた。今は君に感謝を」
「感謝、か……」
ドクドクと心臓が跳ねるのは、死を予感してだろうか。
今までに、何度も感謝の言葉をもらった。けれど――……。
「感謝の言葉はいらない。僕に必要なのは裁きだ」
力が及ばないばかりに、いくつもの命を取りこぼした。
感謝の言葉をもらうたびに張り裂けそうになる、弱い自分。
「裁きが欲しいの? なら、お礼にここで殺してやるよ」
真人が両手を上げる。
ここが自分の最期。
それは自分が思ったよりも、ずっと遅かった。
生きすぎたとすら思っていた。
ズクンッと身体の奥底が不自然に脈を打つ。
異形となれば、虎杖と戦わされるのだろうか。
それならば、自ら命を断つべきだろう。
星也は天枢を剣へと変え、自らの首に突きつけようとして、再びの不快感。
思わず天枢を取り落としてしまう。
しまった、と思ったときにはもう遅くて――……。