第16章 これから目指すファンタジア【成長/我儘】
弾かれた【天枢】を拾う間もなく、気がつけば星也は校舎の壁に押さえつけられていた。
大きく変形させた手のひらが、腕も足も捕らえて身動きを封じている。
『次はアンタと戦わせようと思うんだ。今度は泣いちゃうかな? 現実と理想のすり合わせができていない、バカなガキは』
「は、はは……」
真人の台詞に、思わず笑いが漏れた。
眉をひそめる真人を、星也は夜を切り取ったような深い黒の瞳で見つめる。
「違うよ。彼はまさにそのすり合わせの真っ最中だ」
命を奪うことに躊躇する。
それは決してバカなことではない。
そして、あの異形たちにとって何が最も救いになるのか。彼は分かっているはずだ。
異形たちの命の天秤は、すでに失われている。
「どちらかと言えば、バカなのは君だよ」
ガシャンッと校舎の窓が割れ、星也を拘束する腕へ、虎杖が両手を振り下ろした。
虎杖がこの場に戻ってきた意味を悟り、星也の胸がキツく痛む。
どれほどの苦悩の果てに選択したのか。
命の重みを知るからこそ、その幼い背中に背負った痛みは計り知れない。
驚きと歓喜を混ぜたような表情を作る真人に、星也は素早く【天枢】を拾い、棒状に変形させて打ち出した。
けれど、その一撃は真人に避けられてしまう。しかし、避けた真人を虎杖の拳が背後から襲った。
『ぐ……っ』
呻く真人へ、星也は【天枢】を旋回させてさらに叩きつける。
さらに、星也の攻撃を受けた真人へ虎杖が拳を放った。
互いが作った隙に互いが攻撃を加える。
当初に星也が虎杖へ話した作戦だ。
避けることもできない、身体を復元させることも、異形を繰り出すこともできない――否、させない。