第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
『詞織。今、そっちに向かってる。それまで耐えられるか?』
「……誰に言ってるの。全然ヨユーだから。今のこの学校は危なすぎる。呪物を回収して、その先輩も助ければいいんでしょ」
段々と整う呼吸に、明確な行動方針ができたことで、霧が晴れたように頭がはっきりとしてきた。
『もう近くまで来てるから……あまり無理はするな』
「約束できない」
『おい!』
プツッと一方的に通話を切り、詞織は廊下に出る。そこには、三体の呪霊がこちらを見ていた。おそらく、三級だろう。
少女は挑むように見据え、不敵に口角を上げた。
「……退いてくれる? 探し物があるの」
――「今、そっちに向かってる」
一人で戦っているわけではない。
助けを待っている人もいる。
だったら、わたしは負けない。
目を閉じると、同じ顔をしたもう一人の自分が、紅い瞳を細めて笑う。
「【――ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは】」
バァンッと炎が爆ぜ、呪霊たちを呑み込んだ。
* * *