第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「虎杖くん。相手の手の内が分からないのに懐に飛び込むのは危険だ」
飛び退くようにして戻ってきた虎杖は、「サーセン(すみません)!」と謝意だけ口にする。
相手は触れるだけで異形に作り変える術式を持っている。
虎杖の打撃は強力だが、間合いが短い分 危険。
それに攻撃を加えてもすぐに復元されて……。
そこまで考えて、星也は眉をひそめた。階段の中腹まで吹き飛ばされた真人も、少し驚いたような表情をしている。
真人は明らかに怪我を負っていた。
鼻血が出て、口の端も切れて流血していた。そして、彼はそれを復元することができるはず。
なぜ復元しない……? いや、できないのか?
虎杖 悠仁の身体には、虎杖本人と宿儺、二人分の魂が同居している状態。真人は魂の形を知覚していると言っていたはずだ。
もしかしたら、虎杖 悠仁が抱えているイレギュラーが、真人に対して無自覚に作用している……?
そこまで推測を立てて、星也はそれを放棄した。
分からないことは、どれだけ頭を捻ったところで答えには辿り着かない。
ならば、今 目に見えている事実にだけを目を向けるべきだ。
自分の攻撃は通らない。虎杖の攻撃は通る。
その二点が分かっていれば充分。
「虎杖くん。あの呪霊――君の攻撃は効くみたいだけど、僕の攻撃は効かないんだ」
「え⁉︎ なんで⁉︎」
「理由は分からない。でも、隙を作ることはできる。だから――……」
互いに隙を作り合い、攻撃を畳み掛ける。
復元をする余裕など与えないほどに。
これが最善だ。
小声で虎杖に説明すると、「応!」と気合の入った言葉が返ってくる。