第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「虎杖くん、下がって」
「冗談! あの真人とかいう呪霊、順平を殺そうとしやがった。絶対(ぜってぇ)許せねぇ」
ツギハギ顔の呪霊は真人という名前を持つらしい。
虎杖がどういう経緯で知ったのかは分からないが。
関係のないことでも、情報は多いに越したことはない。
口元の血を拭いながら、虎杖がゆらりと立ち上がった。
「まぁ、そう言うと思った」
他人のために憤ることのできる彼が、目の前で命を奪われそうになって、黙っていられるはずがない。
「でも、君はここで大人しくしておくんだ」
「え、あ……は、はい」
戸惑う順平をそのままに、星也は己の式神に命じる。
「【太裳(たいじょう)】、吉野 順平を守れ」
ビクッと順平が肩を震わせた。平均よりも二回りは大きな翡翠色の鳥が彼を守るように羽で包み込む。
【太裳】――十二天将の一角で、結界術を得意とする式神だ。
規模こそ、十二天将で最も優れた防御力を誇る玄武に及ばないが、強度ならば引けを取らない。
「あ、あの……なんで僕の名前……」
星也は順平と顔を合わせたのは初めてだ。
それなのに、なぜ自分を知っているのか怪訝に思っているのだろう。
「ごめん、順平。アイツぶっ飛ばしたら全部 説明するから、ちょっと待ってて」
ガッと両手の拳を打ちつけ、虎杖が星也の隣に立った。
「ROUND2ってわけだ――……え……?」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた真人が、キョトンと目を丸くする。
それは星也も同じだった。
気がつけば、虎杖の姿が隣にない。
え、と視線を真人へ向けるのと、真人の顔面に虎杖の拳がめり込んだのは同時だった。