第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
里桜高校に張られた帳の中へ入った星也は、すぐに虎杖のいる場所へ向かった。
校舎の割れた窓ガラスと戦闘音で、探すまでもなく見つけられる。
まさか、すでにあのツギハギ顔の呪霊と対峙しているのか。
最悪の考えを振り払い、星也はすぐに虎杖がいるであろう方向へ急ぐ。階段を駆け上がり、まず視界に飛び込んできたのは虎杖だった。
巨大な手に捕らわれ、窓枠に押しつけられている。次いで、吉野 順平に触れる見覚えのある男――否、ツギハギ顔の呪霊。
考えるより早く、星也は懐から呪符を抜き、素早く飛ばした。
「【術符展開――急々如律令】‼︎」
その呪符は「何かの役に立つかもしれないから」と星良に渡されたものだ。
書字具現術を使う姉が手ずからしたためた、発動した術式をリセットさせる効果を持つ【術式回帰】の符。
呪言と同じで、強い効力を持つ文字を書けば、その分 多くの呪力を要求される。この呪符も何度もしたためられる代物ではなく、一枚しかない。
バチバチッと閃光が弾けたのと同時に、不自然に歪んだ順平の頭が元の形を取り戻す。
慌てて飛び退いたツギハギ顔の呪霊が、星也の存在を視界に入れた。
「間一髪ってところだね。二人とも無事かい?」
そう言いつつ、二人の状態をさっと確認する。虎杖も順平も少なからず傷を負っているが、動けないほどではなさそうだ。
意識して二人を背に庇う位置に立ち、星也はツギハギ顔の呪霊を見据えた。
「下水道以来だね。ピンピンしてるじゃん、特級呪術師。お互い無事で何よりだ。ハグでもするかい? 再会を祝して」
「悪いけど、遠慮しておくよ」
懐から取り出した呪具 天枢を棒状に伸ばして構える。
おそらく、あの呪霊の術式は、元の状態の手で直接触れる必要があるのだろう。間合いに入るのは危険だ。