第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「虎杖くん、下がって」
「冗談! あの真人とかいう呪霊、順平を殺そうとしやがった。絶対(ぜってぇ)許せねぇ」
口元の血を拭いながらゆらりと立ち上がった。順平との戦いで負傷しているが、この程度はかすり傷だ。
「まぁ、そう言うと思った。でも、君はここで大人しくしておくんだ」
「え、あ……は、はい」
順平が戸惑いの表情を浮かべて頷く。
「【太裳(たいじょう)】、吉野 順平を守れ」
ビクッと順平が肩を震わせた。平均よりも二回りは大きな翡翠色の鳥が彼を守るように羽で包み込む。
「あ、あの……なんで僕の名前……」
星也は順平と顔を合わせたのは初めてだ。
それなのに、なぜ彼は自分を知っているのか気になるのだろう。
「ごめん、順平。アイツぶっ飛ばしたら全部 説明するから、ちょっと待ってて」
ガッと両手の拳を打ちつけ、虎杖は星也の隣に立った。
「ROUND2ってわけだ――……え……?」
ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた真人が、キョトンと目を丸くする。余裕なんて与えない。
脳裏には、順平が異形へと作り変えられそうになった光景が蘇っていた。
星也が間に合ったからよかったものの、間に合わなかったら――……そう考えると、ゾッと背筋が粟立つ。
きっとそのとき、この呪霊は腹を抱えて笑いながら、異形になった順平を自分へとけしかけるのだろう。
許さない……命を弄ぶこの呪霊は、生かしておいてはいけない。
ゴッと音を立てて、虎杖の拳が真人へとめり込んだ。
* * *