第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「虎杖くん、真人さんは悪い人じゃ……悪い、人……じゃ……」
ない、と続けようとしたはずの順平が言い淀む。
もしかしたら、順平は真人がした非道な行為を知っているのか?
限界まで膨らませたり、逆に限界まで小さくしたり……実験と称して人の命を弄ぶ行為を。
もし知っているのならば分かるはずだ。
真人と呼ばれた呪霊は、紛れもなく人ではない。
呪霊はどこまでいっても、呪いでしかないのだ。
迷いを見透かすように、真人は左腕で虎杖を押さえつけたまま、反対の手で後ろから順平の肩を叩いた。
「順平はさ、まぁ、頭良いんだろうね。でも、熟慮は時に短慮以上の愚行を招くものさ。君ってその典型!」
順平って、君がバカにしてる人間の、その次くらいにはバカだから。
耳元で囁かれた順平が、絶望に目を見開いた。
「だから、死ぬんだよ」
――【無為転――……】
「【符術展開――急々如律令】‼」
駆け抜けた呪符が、大きく目を見開いて不自然に歪もうとした順平を人間へと戻す。
バチバチッと弾けた閃光に、真人が順平から飛び退き、呪符が飛んできた方へと虚ろな目を向けた。同時に虎杖の拘束が解ける。
「間一髪ってところだね。二人とも無事かい?」
「星也さん!」
ケホッと咳込んで名前を呼ぶと、星也は虎杖と順平を庇う位置で真人を見据えた。
「下水道以来だね。ピンピンしてるじゃん、特級呪術師。お互い無事で何よりだ。ハグでもするかい? 再会を祝して」
「悪いけど、遠慮しておくよ」
懐から取り出した呪具 天枢を棒状に伸ばして構える。