第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
もつれ合うようにして交戦を繰り返し、気がつけば、虎杖と順平は体育館を出て、校舎の廊下で戦っていた。
虎杖は、呪力を纏わせた拳を順平へ向けて振り上げる。
「――【澱月(おりづき)】!」
呼びかけに応じるように、順平の背後から溢れた軟体の『何か』が彼を包み込んだ。柔らかい感触。見た目はクラゲ――おそらく、伏黒と同じ式神使いなのだろう。
クラゲの中に入られると打撃が通じない。打撃を主体とする虎杖とは相性が悪かった。
「もう一度 言う。引っ込んでろよ、呪術師! 関係ないだろ‼」
虎杖くん、とすら順平は呼ばなかった。
昨日 思い切り笑い合った順平はここにはいない。
順平の呪力がピリピリと空気を震わせる。それに対抗するように、虎杖も呪力を拳に纏わせた。
「それはオマエが決めることじゃねぇ‼」
「無闇な救済に何の意味があるんだ……命の意味を穿き違えるな‼」
怒りに奥歯を噛みしめた順平が、澱月に命じる。素早く伸びた触手が虎杖を襲った。瞬く間に吞み込まれ、虎杖は暗闇に閉じ込められる。
「霊長ぶっている人間の感情……心は! 全て感情の代謝! まやかしだ‼ まやかしで作ったルールで僕を縛るな!」
暗闇の中で順平の叫びが届く。
いったい何があったのかは分からない。
何が彼を変えてしまったのか分からない。
しかし、順平のやっていることは間違っている。
澱月と呼ばれた式神の中で、虎杖はグッと奥歯を噛み締めて拳を握り込んだ。
「奪える命を奪うことを止める権利は誰にもない。そこで寝ててよ。僕には戻ってやることがある」
何をやるつもりなのか。踵を返す音が耳に届く。
おそらく、体育館へ戻ろうとしているのだろう。
――させるわけがない。
誰も傷つけさせはしない。誰も――順平自身だって。
縋るようにして絡む触手を振り解くと、視界に廊下の蛍光灯の光が戻る。その中で、自分に背中を向けようとする順平の襟首を掴んだ。