第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「誰に言い訳してんだよ」
低く唸るように言って、虎杖は順平を引っ張った。
「な、なんで⁉︎ 澱月の毒が効いてないのか⁉︎」
なるほど。このクラゲのような式神は毒を持っていたのか。
どういう理屈かは分からないが、全く何ともない。それはそれで好都合だ。
虎杖は順平の細い身体を放り投げた。体重が軽いせいもあるのか、彼の身体は窓を突き破り、外へと投げ出される。
転がるようにして自転車置き場の屋根に着地した順平を追いかけ、虎杖も割れた窓から外へ出る。
そこではすでに、体勢を整えた順平が手を組み合わせ、こちらを見上げていた。背後には澱月が主人の命令を待っている。
順平の表情には、焦燥と憤怒、憎悪が浮かんでいた。
きっと順平は、自分の着地の寸前を狙っているのだろう。こちらは空中で、身動きがとれない。
その証拠に、順平の背後にいる澱月が触手を太く鋭い棘へと変形させる。
だったら――……。
両手に呪力を溜め、虎杖は大きく振り下ろし、自転車置き場の屋根へと叩きつけた。
「うわぁッ……⁉︎」
屋根が大きく波打ち、順平の足元を崩す。
式神使いは術師本人を叩け。
五条からはそう教わっている。
「順平。オマエが何を言ってんのか、ひとっつも分かんねぇ。それらしい理屈をこねたって、オマエはただ、自分が正しいって思いたいだけだろ」
目を覚ませ。
そう思って、虎杖は順平を殴った。
その勢いで順平は吹っ飛び、再び校舎内へと戻る。
階段の下まで転がった順平は、震える腕で身体を支えながら起こした。虎杖も壁を伝って校舎の中まで戻る。