第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
呪術高専の校舎内で、星也の電話を一方的に切った虎杖は、里桜高校へ向かうべく駆け出そうとした。
けれど、虎杖は不意に足を止める。
「どいてくれ、伊地知さん」
補助監督である伊地知 潔高が、虎杖の行手を阻むべく佇んでいた。
「……私たちの仕事は、人助けです。その中にはまだ、君たち学生も含まれます」
真摯な瞳。そこに普段の気弱さは感じられない。
張り詰めた空気に、それでも虎杖の心は凪いでいた。
「あの日……少年院の任務で、私は間違いを犯した。特級呪霊と相対するかもしれない任務です。学生に任せるには荷が重すぎる。そう心のどこかで感じていながら、私は君たちを向かわせてしまった」
その結果――虎杖は命を落とした。
今 虎杖がこうして生きているのは奇跡。言い方を変えれば、呪いの王である両面宿儺の気まぐれだ。
「伊地知さん……」
「私はもう、間違えない。行ってはいけません、虎杖君」
一瞬の静寂――けれど、虎杖には一秒にも十秒にも感じた。
伊地知の言っていることは分かる。
星也が止める理由も分かる。
自分は弱い。あの日から、ずっと実感している。
自分はどうしようもなく無力で、未熟で……そして、子どもだ。
しかし――立ち止まる理由にはならない。
虎杖は一歩を踏みしめ、駆け出した。
「ごめん、伊地知さん」
すれ違いざまに謝罪を口にする。伊地知は止めなかった。もしかしたら、止めることはできないと分かっていたのかもしれない。
背後で息を詰める気配がする。今の言葉が伊地知を傷つけてしまったことも分かっていた。
それでも、虎杖は振り返ることなく先を急いだ。
* * *