第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
―― 一時間前。
下水道で、星也はスマートフォンを使い、虎杖と話していた。
『――俺は行くよ、星也さん』
「駄目だ。理由は話したよね? 帳まで下りたとなると、奴は生きている上、里桜高校にいる可能性も高い」
事前告知のない帳の報告。とても、あの呪霊と無関係とは思えない。
アレは危険すぎる。特級呪霊に相当する強さも、残酷で凶悪で純粋な思考も。
「すぐに戻る。虎杖くんは待機していてくれ」
グッと言葉を呑み込む気配がスマートフォン越しに感じた。
「分かったね」
『イヤだ』
「虎杖く――」
プツッと一方的に通話を切られる。
「全く……」
予想外の反応とは言わない。つき合いは長くないが、「彼らしい」とすら感じられる。
しかし、情に流されて指示を聞けないのは、これから先を考えると不安しかなかった。
ため息を吐いてぐるりと周囲を見れば、通話中の星也が邪魔されないように、式神たちが異形を相手にしていた。
弱いわけではないが、星也の式神である十二天将を相手にするには、異形たちは力不足だ。
「【玄武】、【天后(てんこう)】。ここはお前たちに任せる」
水気の多いここは、水の性質を持つ彼らが一番戦いやすいだろう。
星也の命令に、蛇を身体に絡ませた亀と鋭いヒレを持つサメやシャチに似た魚が、主人へ応じるようにして目配せをした。
他の式神たちを戻し、星也は下水道を出る。周囲を見渡せば、黒いドームのようなものが視認できた。
急がなければ。彼が無茶をする前に――……。
* * *