第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「何で? 僕はこれ以上に毎日、毎日……毎日毎日毎日毎日……心が折れたって止めてもらえなかったのに……止めてくれって言っても止めてもらえなかったのに……そのうえ、母さんまで……っ! それなのに! どうして‼︎ 僕はコイツを赦さなくちゃいけないんだ⁉」
グッと言葉に詰まった。心の深い部分に強く刻まれた傷痕が見えたような気がした。ズタボロにされ、軋む心の音を聞いた気がした。
先ほど見た、順平の額に穿たれた傷痕。
品行方正だと信じていた目の前の男子生徒がそれほどの行いを、「遊び」と称して笑いながらやったことに、目の前で起きていることと同じくらい恐怖を感じた。
「ごめんなっ、ざぃ……」
喉が潰れたのか。男子生徒がひしゃげた声で謝罪の言葉を紡ぐ。
「……で? だから?」
謝罪を受け入れない順平に、外村も掛けるべき言葉を持たなかった。
何を言えば、順平の心まで届くのか。
どうすれば、順平を助けることができるのか。
奇跡を祈りながら、外村はギュッと目を閉じる。
そこへ、ダァンッと乱暴に体育館の扉が開いた。現れたのは、黒い学ランを着た明るい髪色の少年。昨日、自分に掴みかかり、ズボンを持って走り去った悪ガキだ。
少年は体育館内を一瞥し、その中で佇む順平を視界に入れて叫んだ。
「何してんだよ、順平!」
きっと、驚いてはいる。けれど、普通ならパニックになるこの状況の中で、少年にはそれが見受けられなかった。
少なくとも、この場の誰より、この受け入れがたい状況を理解している。
中へ踏み込んできた少年が、外村を庇うようにして順平の前に立つ。その服の裾を震える手で掴み、外村は名前も知らぬ少年に一縷の希望を託した。
「たの……頼む。吉野を……助けてくれ……」
少年は少しだけ振り返り、小さく頷いて順平を見据える。
二人は顔見知りなのか。順平は驚く様子もなく少年を睨み、聞いたこともないほど低い声を出した。
「引っ込んでろよ、呪術師」
* * *