第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「吉野……」
「なぁ、聞きたいことがある。アレを家に置いたの、オマエか?」
「はぁ? なんの話――」
瞬間、男子生徒の腕に注射痕のような穴が穿たれ、次いでジクジクとまだら模様に赤黒く変色していった。
「なんだよ! 何したテメェ!」
「なってないな」
一気に腕から顔にかけてまだら模様が駆け上がっていく男子生徒に、底冷えするほどの視線を向け、順平は顔を無造作に殴った。
「まだ自分が質問を質問で返せる立場だと思っているのか。オマエは死ぬんだよ。質問の答えがイエスでもノーでも。だって、僕にオマエの嘘を見抜く術はないし、そうされるだけのことをオマエはしてきたからね」
散々に殴って、蹴飛ばして、踏みつける順平に、外村は言葉を失った。
知らなかった。
その言葉では許されないことを、自分は見逃していたのだ。
教師として見逃してはいけないことを、自分は見逃していたのだ。
これほど思い詰めて、逃げるという選択をするしかなかった順平に、自分は教師という立場から偉そうなことを言って、エゴを押しつけていたのだ。
これほど……人格すら変えてしまうほど思い詰めていたのに、自分は何一つ気づけなかった。
いや、この事態になるまで気づくことはできなかっただろう。
教師にも生徒にも信頼される生徒と、内気な順平の訴え。
きっと、「イジメなどするはずはない」と切り捨ててしまうし、少なくともこの学校で、順平の訴えを真摯に受け止める教師はいないだろう。
何が起こっているのか分からない。
ただ、順平は人の領域を超えた力を身につけたようで、触れることなく男子生徒の身体を空中に持ち上げた。
「吉野! 頼む! 止めてやってくれ! もう赦してやってくれ‼︎」
このままでは、順平は男子生徒を殺してしまう。
そう思って、外村は叫んだ。男子生徒にとっても、順平にとっても、最悪の事態だ。
だが、順平は緩慢な動作で、相変わらず冷めた目を向けてくる。