第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
ツギハギだらけの顔と身体を持つ、左右で色の違う虚な瞳の青年――真人は、額にグルリと縫合痕を持った切長の目の青年と二人で里桜高校を見下ろしていた。
「【闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え】」
真人が静かな声で唱えると、里桜高校を黒いどろどろとした幕が覆っていく。
「おー、できたできた」
「悪いね、真人。私の残穢を残すわけにはいかないから」
額に縫合痕を持つ青年が「帳の効果は?」と尋ねてきた。
「夏油に言われた通りにしたよ。内からは出られない、外からは入れる。あくまで、呪力の弱い人間はだけど」
詠唱を教えてもらっただけだが、まさかこんな簡単にできるとは思わなかった。人間が使う呪術とは、存外簡単なもののようだ。
「住宅地での事前告知のない帳。【窓】が通報するだろう。君の考えている絵図が描けるといいね」
【窓】――確か、呪霊を視ることしかできない非呪術師の高専関係者だったか。
額に縫合痕を持つ青年――夏油 傑がニヤリと口角を上げると、少し考えるようにして真人は顎に手を当てた。
「大丈夫じゃないかな」
順平が宿儺の器を引き当てた時点で、流れはできている。後は二人をぶつけ、虎杖に宿儺が優位となる縛りを科すのだ。
「それより、よかったの? あの指、貴重な呪物なんだろ?」
「いいんだ。少年院の指はすぐに虎杖 悠仁が取り込んでしまったからね。吉野 順平の家に仕掛けた方は、高専に回収させたい」
そう。順平の母親を死なせるきっかけとなった両面宿儺の指は、真人たちが仕掛けた罠だった。虎杖と順平を戦わせるために。
順平は自分を信じ切っているし、虎杖は順平を攻撃できない。上手く立ち回ることができれば、こちらの思うように事は運ぶだろう。
ふと隣を見ると、夏油は意地の悪そうな顔をしていた。まぁ、いつもそんな顔をしているのだが。
「悪巧み?」
尋ねると、彼は「まぁね」と含み笑いをして立ち上がった。
「それじゃ、私はお暇させてもらうよ」
「夏油も見ていけばいいのに」
きっと楽しいだろう。愚かな子どもが死ぬところは――……。
* * *