第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
昨夜、遺体となった母を見つけた順平は、一瞬にして混乱に陥った。
人間というものは、理解が追いつかない状況を目の当たりにすると、声も出せないのだと初めて知った。
下半身が千切られた母の遺体。
人間業とは思えない有り様に、頭の中で、ほんのわずかに冷静な部分が教えてくれる。
これは人間ではなく、呪霊と呼ばれる存在の仕業なのだと。
目の前の状況に、今日 知り合ったばかりの少年の顔がよぎる。けれど、順平は少年ではなく、もう一人の人物を頼った。
自分を虐めていた三人の生徒を映画館で殺してくれた、真人という名の人ならざる者。彼もまた呪霊なのだという。
映画館の一件から、呪霊や呪術、呪術師、そして――魂の存在について教えてくれた、順平にとっての心の拠り所。
真人は母の遺体の傍に転がっていた、人の指のミイラのような物を拾った。それは、呪霊を呼び寄せる呪物なのだと教えてくれる。
なぜ、そんな恐ろしいものが家にあるのか。順平には拾った覚えなどないし、母が手にしていた記憶もない。
悲しみがようやく追いつき、泣きじゃくる順平を優しく抱き寄せ、真人は教えてくれた。
人を呪うことで金を稼いでいる呪詛師は多いのだと。
コネと金さえあれば、人は簡単に呪い殺せるのだと。
自分や母を恨み、金と暇を持て余した薄暗い人間の仕業。
あぁ、アイツらがやったのか――…………。
日が昇るのを待って、順平は母のクローゼットを開けた。
黒い服は持っていなかったから、母のものを借りようと思ったのだ。
はじめに目についた薄手のコートを羽織り、外に出る。
嗅ぎ慣れた朝の空気も、見慣れた通学路も、今日は――……。
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