• テキストサイズ

夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】


「……虎杖くんは、呪術師なんだよね?」

「おぅ」

 言ってよかったのか分からないが、言わないと映画館の事件について聞けなかったので仕方がない。

 そんなことを考えていると、順平は固い声音で続けた。

「人を……殺したことある?」

「え……?」

 なぜそんなことを聞いてくるのか分からなかった。けれど、順平の表情はひどく真剣で、興味本位で聞いているわけではない。

「ない……」

 一瞬だけ呪霊に似た異形のことを思い出したが、家入の話では、彼らは異形となった時点ですでに死んでいたと聞いている。
 ならば、やはり自分の答えは「否」だろう。

 張り詰めた緊張の中で、順平は「でも」とさらに質問を重ねてくる。

「いつか悪い呪術師と戦ったりするよね。そのときはどうするの?」

「……それでも……殺したくはないな」

「なんで? 悪い奴だよ?」

 悪い呪術師。つまり、今回の映画館での事件を起こし、人間を異形へと変えてしまう呪詛師のことだろうか。

 けれど、殺さないで済むのならば、殺さない方がいいに決まっている。
 それに――……。

「なんつーか。一度人を殺したら、『殺す』って選択肢が、俺の生活に入り込むと思うんだ。命の価値が曖昧になって、大切な人の価値まで分からなくなるのが、俺は怖い」

 殺すことを当たり前にしたくない。
 殺したことを『仕方ない』とか、『悪い奴だから別にいいか』とか、そんな風に思いたくない。

 良い人間も悪い人間も、大切な人も知らない人も。
 命の価値は同じなのだから。

 虎杖の答えに、順平は押し黙る。

 何を聞きたかったのかは分からないし、なぜこんな質問をしたのかは分からない。
 やがて、伊地知が迎えに来て家を出るまで、どこか奇妙な空気が漂っていた。

* * *

/ 381ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp