第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】
吉野家で夕食をごちそうになり、映画を見て……虎杖は楽しい時間を過ごした。
家には笑い声が絶えず、気がつけば、映画館の事件のことも、呪術師として順平に近づいたことも忘れていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、順平が酔い潰れた母親に優しく毛布をかけてやる。
「母ちゃん、良い人だな」
「……うん」
小さく頷いた順平が、躊躇いがちに口を開いた。
「実は僕さ、学校に行ってないんだ。昼間に教師が来てたのも、そのこと。学校の奴らに虐められて……『行きたくない』って、母さんに言った。そしたら、『行かなくてもいいんじゃない』って、言ってくれたんだ」
何でも重く考えすぎるな。もっと広い世界を見て、自分のやりたいことを選べ。
そんなふうに母が言ってくれたのだと、順平は嬉しそうな、どこか誇らしそうな表情を見せた。
「虎杖くんのお母さんはどんな人?」
「あー……俺、会ったことねぇんだわ。父ちゃんはうーっすら記憶があんだけど。でも、俺にはじいちゃんがいたから」
虎杖の回答に一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたものの、順平は「そっか」と小さく笑みを作った。
しばらく沈黙が場に降り注ぐ。
時折り物言いたげにこちらを見ていた順平が、躊躇いがちに口を開いた。