第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】
――「いっばい練習したからさ」
――「実験体としてベスト」
――「俺は運がいいね」
発生してから時間が浅いのか、幼い子どものような呪霊だった。自分のやっている残虐性を理解できていないかのような。
いや、知ったところで止めることもしないだろうが。
五条が遭遇したという特級呪霊は領域展開まで習得していたと聞く。あの呪霊が生きていたとしたら、その段階まで上り詰めるのに時間は掛からないだろう。いや、もしかしたら、すでに習得済みかもしれない。
一つ一つ星良に話しながら、星也の頭は驚くほど澄み渡っていった。
「一秒でも早く祓わないと、どんどん被害者が増えていくわね。手伝ってあげたいけど……あたしもまだ任務を抱えてて……」
「大丈夫。もう……大丈夫だよ」
抱きしめていた姉を解放し、星也は「大丈夫」を繰り返した。
「ほんとーに?」
「本当に」
窺うように星良が目を細める。心配してくれているのだと分かり、胸がじわりと熱を持った。
いつだって、自分の心の弱さを理解し、励ましてくれる姉。行き先を見失ったときに導いてくれる、星也にとっての北極星だ。
だったら良いけど、と星良は小さな巻物を取り出し、筆で文字を書き綴った。
「反転術式――【修復】」
淡い光が身体を包み込み、星也の身体に刻まれた傷を消していく。痛みも引き、心なしか疲労感も薄れた気がする。