第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】
不審に思われないよう、路地裏で静かに、星也は息を潜めるようにして空を仰いでいた。
先ほどの戦いを思い出す。
助けて、と言った異形の声が、今も耳にこびりついていた。
肉を切り裂いた感触に、星也は深く震える息を吐き出す。
また、助けられなかった……。
自分は何度 命を取り零せば気が済むのか。
どれだけ強くなれば、目に映る全ての命を助けられるのだろうか。
不可能だと分かっていても、願わずにはいられない。
ギリッと奥歯を噛み締める音に混ざって、足音が耳に届いた。
「星也ったら、またそんな顔して」
「……姉さん」
自分と似た面差しを持つ姉の姿に、キリキリとした胸の痛みが幾分か和らぐ。
「ボロボロじゃない……そんなに強い相手なの? 大丈――……」
弟の身体に触れながら、星良は傷の具合を確認した。そんな姉の小さな肩口に、星也は頭を乗せる。
「……星也?」
キョトンとする星良を、星也は縋るように抱きしめた。自分よりずっと小さな温もりに、確かな安心感を覚える。
「……姉さん……僕は……」
やがて、星良は弟の背中に手を回し、子どもをあやすように優しく撫でた。
「星也、いつも言ってるでしょ? 一人で背負おうとしないで。あなたは確かに強いけど、あなたが思ってるほど強いわけじゃない。誰にも吐き出せないなら、あたしに言いなさい。全部聞いてあげるから。愚痴も弱音も、全部受け止めてあげるから」
うん、と小さく頷く。