第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】
どうにか蠅頭の捕獲に成功した伊地知は、自動車の中で頭を抱えていた。虎杖とはぐれてしまったのだ。
何度も連絡をくれていたようだが、蠅頭の捕獲に夢中になっていて、全然気がつかなかった。
伊地知が慌てて連絡すると、あろうことか、虎杖は吉野 順平の家にいると言う。
「えぇ⁉︎ 吉野 順平の自宅に⁉︎ それはちょっと……!」
彼が映画館での一件の加害者である可能性は消えたわけではない。
だが、虎杖は順平と意気投合したらしく、「これから映画だから」と言って、さっさと通話を切ってしまった。
マズイマズイマズイ。
伊地知の頭の中は、すでにカオスとなっていた。
仮に吉野 順平が事件の加害者側として関わっていたとしても、今の虎杖ならばすぐにやられてしまうことはないだろう。
しかし、これは監督する立場として大失態だ。
存在そのものが理不尽の塊のような五条ならまだしも、年齢は下だが精神年齢が年上の星也に責められてしまったら……自分はたぶん泣く。
「急げ、私! この年齢で人前で泣きたくないでしょ!」
伊地知は急いで自動車を発進させた。
法定速度は守りつつ、赤信号に当たるなと念を飛ばす。
そこへ、スマートフォンが振動した。液晶画面に神ノ原 星也の名前が表示される。
伊地知は携帯ホルダーに入れたスマートフォンの通話をスピーカーモードに切り替えて電話に出た。