第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】
「虎杖君、映画好きなの?」
「ちょい事情があってさ、ここ最近は映画三昧」
しかし、ちゃんと映画館でみたわけではない。最後に映画館まで足を運んだのはいつだっただろうか。
そう話すと、順平は「えー!」ともったいなさそうに声を上げた。
「やっぱり、映画館で面白い作品を引いたときの感動はデカイよ」
「そうだよなぁ。じゃあさ、今度 オススメがあったら連れてってよ」
虎杖の言葉に、順平がピシッと固まる。
何か変なことを言っただろうか。
考えて、「あぁ」と思い至った。
「連絡先 知らねぇもんな。ほい」
スマートフォンを差し出すと、順平は戸惑ったようにして視線を彷徨わせる。その理由が分からずに内心で首を傾げる。
「アレ? 順平、珍しいね。友達?」
「母さん!」
唐突に降ってきた女性の声に、順平が真っ先に反応した。
遅れて振り返ると、買い物袋をぶら下げ、タバコをふかす主婦がこちらを見下ろしていた。何を作る予定なのか、買い物袋からはネギが覗いている。
「さっき会ったばかりだよ」
「さっき会ったばかりだけど、友達になれそうでーす!」
手を上げて主張すると、彼女は「ハハッ!」と小さく吹き出した。
「なんて子?」
「虎杖 悠仁です! お母さん、ネギ似合わないっスね!」
「お、分かる? ネギ似合わない女目指してんの」
順平の母はかなりノリが良く、会って数秒だというのに、虎杖はすでに彼女とも仲良くなれそうな気がしていた。
順平は呆れ顔で「何言ってんの?」と言いつつ、母親の手からタバコを取り上げる。
身体に悪い自覚はあるのか。禁煙をさせたい息子に言われるまま、携帯灰皿にタバコを捨てた。そして、改めて視線を悠仁に向ける。
「悠仁君、どう? 晩飯食べていかない?」
「ちょっと! 迷惑だろ!」
「私の飯が迷惑? あぁん?」
夕飯の話が出たからか。空腹感が身体を襲い、腹の虫が唐突にものすごい悲鳴を上げた。
* * *