第13章 残酷なカプリッチョ【幼魚と逆罰】
青年との戦闘は続き、星也は消耗していた。
劣勢かというとそうでもないのだが、両者譲らない戦いは終わりが見えず、時間ばかりが過ぎていく。
攻撃を加えても、青年の身体は修復する。青年も星也に触れられず、異形を繰り出して隙を窺う。そんな攻防が繰り返されていた。
それでも、星也は呪力も体力も、集中力も消費してしまっている。
そんな星也の状態を見透かしたように、青年は欄干から笑みを浮かべて見下ろした。
「よく逃げ回ったけど、色々と限界でしょ。特級呪術師」
鹿の足を元の状態に戻す青年には、まだ余裕が見られる。そんな青年へ目を向けることなく、星也は大きく息を吐いた。
そろそろ切り上げなければ、自分の身が保たない。時間を掛ければその分、不利になるのはこちらだ。
「残念だけど、そろそろお暇させてもらうよ」
星也はそう言って、自分の頬に流れる血液を地に落とした。
「【清陽は濁陰に呑まれ、天は地に堕つ】」
点、点と地に血液が滴る。同時に、風が大きく吹き荒れた。
「風……? いや、これは呪力……⁉︎ まさか、禁言による縛り――今までは呪力を制限していたのか。面白い!」
青年は欄干から飛び降り、楽しそうに歪んだ笑みを浮かべる。
「本気だね」
「本気だよ、ずっとね」
瞬間、星也は駆けた。そして、下水道の壁に触れる。