第13章 残酷なカプリッチョ【幼魚と逆罰】
星也は【天枢】を短くし、呪力の刃を作って異形を切り裂いた。切り裂かれた傷口から異形の身体が砕け散り、ボゥッと青白い炎を立てて消える。
「殺してやるのが彼らのため。それが僕にできる最大の慈悲だ」
星也の言葉に、青年は笑いを堪えきれずに肩を震わせて吹き出した。
『嘘が下手! 魂が揺らいでるよ!』
魂が揺らいでいる? 確かにそうだろう。
誰だって、揺らぐに決まっている。
どれだけ呪霊のような姿をしていたところで、相手は人間なのだ。
元の姿に戻してやるのが精一杯で、命を助けてやることはできない。
そのことに無力さを感じ、目の前で笑う青年に憤りを覚える。
『えーっと……アンタ、何級?』
「特級」
短く答えてやると、青年は「へー!」と目を丸くした。
『特級って、五条 悟と同じじゃん! もしかして、五条 悟より強かったりする?』
「まさか」
すると、ニヤリと青年が嬉しそうに口角を上げる。
『よかった。実験体としてベスト。俺は運がいいね。感謝するよ』
瞬間、青年の姿が視界から消えた。いや、消えたのは錯覚で、気がつけば目の前まで迫っていた。
一瞬で距離が詰められたのだと気づいたときには、青年の手のひらが腹部に触れる。
ズグンッと身体中を這い回る不快感に、星也は青年の手を振り払い、慌てて距離をとった。
『急にスピードが上がってビックリした? 自分の魂の形だって変えられるんだよ』
青年が見せつけるようにして片足を上げる。その足は、鹿のように細くしなやかなものへと変形していた。
『呪術師は呪力で身体を守ることはできても、魂を守ることはしてきてない。それに、己の魂を知覚できなきゃ、それもできない。でも、多少は無意識に魂を呪力で覆っているようだね。そうでなきゃ、アンタは今頃、俺の手駒さ。まぁ……』
あと二〜三回触れて、人間をやめさせてあげる。
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