第13章 残酷なカプリッチョ【幼魚と逆罰】
「【バン・ウン・タラク・キリク・アク! 五行の理を以って邪悪を打ち破り、魔を退ける加護となれ。急々如律令】!」
カッと音が鳴るほどに五芒星が光輝いた。その光が拳を打ち出していた青年の腕を焼く。皮が裂けたのか、青年の腕から血飛沫が吹き出した。
慌てて飛び退いた青年は、焼け爛れて皮膚の裂けた腕をブンブンと振り回し、軽い調子で口を開く。
「俺、ちゃんと受けたよね? 呪力で。そういう術式?」
「そういうって?」
今、星也が使ったのは、五大虚空蔵菩薩の真言による【五行障壁】。呪力による影響を受けない護身法で、相手に術を返す効果を持つ。
「良かった。お喋りが嫌いなわけじゃないんだ」
ニヤニヤと笑う青年に、星也は無言を返した。
絵に描いたような軽薄。その奥にあるドス黒い強さ。
この呪霊――強すぎる。今まで相手にしてきた呪霊と比ではない。
確か、五条が未登録の特級呪霊二体と遭遇したと報告していた。この目の前の呪霊も、何か関係があるのか?
ジリジリとした空気の中で、星也が相手の出方を窺って警戒していると、青年は「ねぇ」と呼びかけてきた。
「アンタはさ、魂と肉体。どっちが先だと思う?」
質問の意図が分からず、星也が沈黙していると、青年は続ける。
「ほら、あるでしょ? 肉体に魂が宿るのか。それとも、魂が肉づけされているのか。俺は知ってる。いつだって魂は肉体の先にあるってこと。肉体の形は、魂の形に引っ張られるんだ」
ボコボコと青年の腕の肉が収縮し、爛れて裂けていた皮が元の形を取り戻した。