第13章 残酷なカプリッチョ【幼魚と逆罰】
「【ノウマク・サンマンダ・バサラダン・カン】」
ボウッと炎が爆ぜ、呪霊が呑み込まれる。
残穢を追って、星也は下水道まで来ていた。
中に入った途端、呪霊に襲われたが――いや、分かっている。この呪霊は元人間。
星也は軋む心を無視して、印を結び、真言を唱えた。
逆巻く旋風が元人間の呪霊を切り刻む。
「【この言葉は、遍く命を等しく照らし出し、罪深き心を掬い上げ、人へと還す。急々如律令】」
人の命を奪った罪悪感に早鐘を打つ心臓を宥め、星也は努めて淡々と言葉を紡いだ。異形の輪郭がぼやけ、ゆっくりと人の姿を取り戻す。だが、息を吹き返すことはない。
「出てくるなら早くしてくれないか。手遅れの異形とはいえ、人を殺すのは気分が悪い」
星也の声が届いたのか。下水道の奥から、ジャブッと水路をかき分けて一人の青年が現れた。
左右で色の違う瞳は底なし沼のような虚。色素の薄いボサボサの髪、顔や身体中はツギハギだらけで、襤褸(ぼろ)のような布を身に纏っている。
「いやぁ、良かった良かった。五条 悟が来ても困るけど、あんまり弱いと実験にならないからさ」
実験、という言葉に軽い憤りを覚えたが、星也はそれを表に出すことなく、頭を冷やす。
「こう見えて、僕はあまり気が長くない。手早く済ませよう」
星也の台詞を皮切りに、まず青年が動いた。体勢を低くし、こちらへ掴みかかってくる。
相手は人間を異形に変える術式を使ってくる。どういう手順を必要とするのか分からないが、近づきすぎるのは危険だ。
一瞬でそこまで判断し、星也は手早く五芒星を描いた。