第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「すごいな、アイツ。呪力なし。素の力でアレか」
「真希さんと同じタイプかな? それか、何か特別な訓練を積んでるとか……?」
二人で頭を捻っていると、どちらからともなく「あ」と呟いた。
「こんなことしてる場合じゃなかった。とりあえず、もう一度探してみるか。校舎とグラウンドは探したし、今度は生徒に話を聞いた方がいいかもしれない。もしかしたら……」
拾った生徒がいるかも、と続けようとすると、突然 虎杖が叫んだ。
「あぁっ! もう半過ぎてんじゃん!」
虎杖の言葉に促されるように、学校の時計へと視線を向ける。時刻は十六時半を回っていた。
校門へ走る虎杖と伏黒、詞織の二人がすれ違う――と、チリッと頭の芯で火花が爆ぜた。弾かれるように二人は虎杖へ振り返る。
「呪物の気配!」
「明らかに近くなったな! ……おい、オマエ!」
伏黒が呼び止めようとするも、虎杖の背中はあっという間に見えなくなる。
「は、はや……」
珍しく明確な驚きの表情を浮かべる詞織に、先ほどの男子生徒が声をかけてきた。
「アイツ、五〇メートル三秒で走るらしいぞ」
「三秒……あの人、ちゃんと人間?」
確かに。五〇メートルを三秒ということは、一秒で十五メートル以上を走るということだ。もはや、人間のレベルを超えている。車並みだ。
「追うぞ、詞織」
「待って」
「は?」
引っ張ろうとして握った手は動かず、詞織は大きな夜色の瞳を伏黒に向けた。