第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
二人は再び、杉沢第三高校の敷地内へ戻った。
すると、唐突に歓声が耳に届く。
気になって近くまで行ってみると、歓声の中心には同い年くらいの少年とがっしりとした体型の中年男性がいた。
ドッと重たい鉄球の着地する音が鈍く響く。
「十四メートル!」
賞賛の拍手が湧き上がる。投げたのは高木という中年の男性だ。
「ねぇ、何やってるの?」
少女が躊躇なく近くにいた男子生徒に声をかけた。
詞織は感情の起伏が表に出にくく、口数も多くないことから、人付き合いが苦手だと思われがちだ。
しかし、実際はそうでもない。こうして、見ず知らずの人に話しかけたり、慣れればそれなりに話したりもする。
「勝負だよ、勝負! イタドリの陸上部の入部を賭けてな!」
「イタドリ? 変わった名字」
虎杖 悠仁。今年入学したばかりの一年で、異常なレベルの運動神経を持ち、『西中の虎』というあだ名を持っているらしい。
「っていうか、君たちは? 見かけない顔だけど……本当にここの生徒?」
「あ、あぁ。俺たちも新入生だから……」
どうにか誤魔化そうとした伏黒の耳に、風を切るような鋭い音が届いた。
――ゴイィイィィン!
野球のピッチングのように大きく振りかぶった虎杖の手から、まるで弾丸のように鉄球が放たれたのだ。
「おっし、俺の勝ち!」
全員が驚きに目を剥く中で、虎杖だけがガッツポーズを決める。
グラウンドでは、鉄球がサッカーゴールのクロスバーに命中し、変形してしまっている。
虎杖のいたところからサッカーゴールまでは三〇メートル弱もあるというのに。
「じゃっ、先生。俺、用事あっから」
もはや言葉も出ない高木の肩を、虎杖は「ナイススローイング」と肩を叩く。