第12章 再会までのインテルメッツォ【幼魚と逆罰】
「人間だよ」
解剖を終えた家入 硝子に招かれ、星也は虎杖と共に自分たちの倒した呪霊を見下ろしていた。
一旦、呪術高専まで戻り、彼女に急いで解剖を頼んだのだ。
「……いや、元人間と言った方がいいかな。映画館の三人と同じ。呪術で身体の形を無理やり変えられてる」
気怠げな家入の声には、微かに嫌悪感が滲んでいる。
「それだけなら初めに気づけます。けれど、僕たちが戦った二人は、呪霊のように呪力を持っていました」
そう言いつつ、星也はギュッと拳を握りしめた。怒りと自己嫌悪、無力感に吐き気がする。
なぜ、もっと早く気づけなかったんだ、と。
たとえ呪力を持ち、呪霊と違わない姿であっても、よく観察すれば気づけたはずだ。あの呪霊は、腕時計やアクセサリーを身につけていた。
そのことに違和感を持てていたら……。
「術式のことは犯人に聞くしかないな。ただ、脳幹の辺りにイジられた形跡がある。おそらく、意識障害……錯乱状態を作り出すためだろう。脳までイジれるなら、呪力を使えるように人間を改造することも可能かもしれん」
脳と呪力の関係はまだブラックボックス。
術式がどこまで肉体や精神に作用できるのかは未知数だ。
星也は自分の中で渦巻く様々な負の感情を胸の奥に押しやり、おもむろに腕を持ち上げ、二体の呪霊に手を翳した。
「……【この言葉は、遍く命を等しく照らし出し、罪深き心を掬い上げ、人へと還す。急々如律令】」
ポゥ…と真白き浄化の光が二体の呪霊を包み込み、輪郭がぼやける。膨大な呪力の消費を感じながら、星也は眉を寄せた。
やがて、光が収束すると、そこに呪霊の姿はなく、二人の男性の遺体が横たわっている。
人として死なせてやることができなかった。だから、せめて人の姿で見送ってやりたいと思ったのだ。
「陰陽術の反転術式か――こればっかりは、あたしじゃ真似できないな」
「反転術式による治癒の有用性を考えると、充分だと思いますよ」
目の前の光景に言葉を失くす虎杖に視線を向ける。