第12章 再会までのインテルメッツォ【幼魚と逆罰】
やがて、残穢を追って屋上の扉を開ける。そこには呪霊がいた。
四足歩行の瘦せぎすな呪霊だ。黒い髪を生やし、同じ色のふさふさとした犬のような尾を持っている。目がギョロリと飛び出ていて歯も剥き出しだ。
『おべおべん、とぅ~』
ぎょろりと蠢いた目玉に、虎杖は体勢を低くした。それを星也が制する。
「待って。コレは僕が相手をする。虎杖くんはソレを」
星也が促す視線の先には、もう一体の呪霊がいた。
身体は蜥蜴のような爬虫類に似て、歯は縦向きに、横へ開く。目は小さく、開いているのかどうかさえ不確かだ。
『いいい~ぃ、せん、ざい……』
気味の悪さに内心で引いてしまう。
「勝てないと思ったらすぐに呼ぶんだ」
「ちょっとナメすぎじゃない? 俺のこと」
階級とかは詳しくないが、この程度を祓うくらいはできる。
むしろ、遅れをとるかもしれないと思われていることの方が腹立つのだが。
「ナメているわけじゃないよ。ただ、僕は五条先生から君を任されている。それに、君は詞織や恵の友人で――なにより、僕より弱い。充分、庇護対象だ」
「そういう基準なら、ナメられた方がよかったよ」
カチンッときて憎まれ口を返す虎杖に、星也は呪霊を見据えたまま続ける。
「君はいくつかの死線を越えてきたけど、まだまだ未熟だ。心も、身体もね。きっと、これからもっと知ることになるよ。失ったもの、守れなかったもの……それを数えて、押し潰されて、己の無力を噛み締めたとき――……君の心は、いったいどこを向いているだろうね」
その言葉に、虎杖は目を丸くした。言っている意味が分からなかった。けれど、考える間もなく、星也が呼んでくる。